第5章:証明法と「if」――対偶、背理法、数学的帰納法

――仮定を真理へと変貌させる論理の錬金術

5.1 証明とは「if」の鎖を繋ぐ作業である

数学の真の鼓動は、論理ルールを道具として使い、未知の荒野に真理の旗を立てる「証明(Proof)」という動的な営みの中にこそ宿っている。証明という行為は、仮定という「もし(if)」の世界から、結論という「必然(then)」の世界へと、論理のレールを敷いていく作業に他ならない。

5.2 直接証明法:演繹の王道

最も基本的であり、かつ数学的思考の根幹を成すのが直接証明法(Direct Proof)である。これは、 の鎖を一つずつ繋いでいく手法である。

  • 例: 「 が偶数ならば、 は偶数である」
  1. If: は偶数とする。
  2. 展開: と書ける。
  3. 演算:
  4. Then: も偶数の定義を満たす。

5.3 対偶証明法:論理の「裏口」

真正面から挑んでも突破口が見つからないとき、数学者は矢印を裏返す。 の代わりに、その対偶である を証明するのである。

  • 例: 「 が偶数ならば、 は偶数である」 これを直接示すのは難しい。そこで対偶「 が奇数ならば、 は奇数である」を示す。 これで対偶が言えたので、元の命題も証明されたことになる。

5.4 背理法:矛盾という不条理の力

背理法(Reductio ad absurdum)は、証明したいことの否定をあえて仮定し、論理的な崩壊(矛盾)を導く。

  • 例: が無理数であることの証明。 もし有理数()だと仮定すると、既約分数であるはずなのに も偶数になってしまうという矛盾が生じる。この「if」の果ての破綻こそが、真理の証明となる。

5.5 数学的帰納法:「if」のドミノ倒し

無限に続く自然数のすべてを支配するのが数学的帰納法である。

  1. 基底: が成り立つ。
  2. ステップ: 「もし が真ならば、 も真である」という if を証明する。

この「継承のルール」が証明されれば、無限のドミノは永遠に倒れ続ける。

5.6 第5章の結語:知の盾と矛

証明法を選ぶことは、数学者の知略と美学の現れである。 次章では、命題論理に「量」の概念を導入する「述語論理」の世界へと進む。「すべての において……」という表現が、いかに「if」の射程を無限へと広げるのかを見ていこう。